下に行く

『上に行ったら逃げ場は無いし、下に行くしかないな』
上に行っても屋上しかない、それだと追いつめられると逃げるに逃げれなくなる。
下ならこの暗がりだし気づかれ難い、それに出入り口から逃げる事も可能だ。

『よし!』
僕は薄暗い階段を下りて行く。
いつもこの廃ビルに来るときは中央のエスカレーターを使っている、エスカレーターといっても動く事は無い。
光に照らされ埃まみれになったエスカレーターが僕は好きでよく写真を撮ったもんだ。
いつも光の差し込み方が違って何度見ても飽きないからだ。

薄暗い、というより小窓が無い所は真っ暗な階段をゆっくりと下りて行く。
『結構怖いな』
階段を選んだ事を少し後悔しながら、足下に気をつけて下りて行く。

1階を目指し暗闇に近い階段を下りていた時・・・

グルルル

『え?』

グルルル

近くにいる!
全身から嫌な汗がでる。
暗闇の中息を殺し注意深く周囲に神経を張り巡らせる。
鼓動が早くなる。
暗闇の中目を見開く。

その時だった。
微かに光が漏れてるあたりを何者かが通り過ぎる。

(追いつかれた!)
僕は覚悟を決め、相手の行動を探る。

グルルル

低い唸り声が聞こえる。
まるで地獄から悪魔が這い出してきた様なこの世のものとは思えない唸り声。
僕は少しずつ壁を背にして一歩また一歩と下へ進む事にした。

暗闇を注意しながら見つめ、ゆっくりと進む。
暗闇の中に追っ手と目が合う。
正確には目が合ってはいないかもしれない、そこに居る事は気配から分かる。

暗闇を見つめる。
いつ何が起きても対処ができる様に細心の注意を払う。

一瞬だった。

暗闇を見つめ続けている内にクラッと来たその瞬間を追っ手は見逃さなかった。

ガァァァ!!

咆哮とともに僕の体は弾き飛ばされた。
階段を転げ落ちる。
体中に痛みが走り、僕は少しずつ意識を失って行く。

・・・
・・・・
・・・・・

『つっ!』
体の痛みで頭がはっきりとしてくる。
体を確認すると、酷い怪我はないようだ。
『助かった?』
辺りに気配はなかった、何事も無かった様に僕以外はいつもと変わらない廃ビルの静寂があった。
『なんだったんだろう?』
階段を落ちた事でカメラバッグに入れていた持ち物が散乱している。
暗がりの中分かる範囲で拾い集めて行く。
カメラを拾った時にメモリーの蓋が開いてメモリーカードが無い事に気がついた、落ちた時に弾け飛んだのか、それとも抜き取られたのか?
カメラの動作をチェックしてみると、どうやら無事な様子。
さすがにこの暗闇の中メモリーカードを探すのは難しい、僕は抜き取られたと思い諦める事にした。
▶終わり ▶おまけ