第三章 真夜中の電話

その晩突然の電話が何だったのか妙に気になって仕方が無い。
『かけ直そうとしても非通知なんだよなぁ』
携帯を片手に考えてみるがさっぱり分からない。
『たぶん悪戯だったんだろう』
そう自分に言い聞かせる事にした。


やっと眠りについた頃。

リリリリリ!


携帯が突然鳴りだした。
少し寝ぼけた頭のままで携帯を取りに起きる。
『誰だよ』
携帯には”ユーザ非通知”と表示されていた。
『非通知って事は、あの電話の相手なんだろうか?』
少し悩んでから、悪戯なのかそれとも本当なのかを確かめてやろうと思い通話ボタンを押す。

『もしもし』
電話に出ると何やら話し声らしきものが聞こえてくる。
『なんだろう?』
耳を澄まして声に集中する。

ドンドン、ドンドン

何か叩いてる音がする。
『出してよ!』
女性の声が聞こえてきた。
『ここが何処か知りたいか?』
少しこもった感じで男の声が聞こえてきた。
『ここからだとK市の夜景が綺麗に見える』
何かを叩く音と声で寝ぼけていた頭がはっきりとしてきた。
この電話は本当だったんだ、そう確信して注意して会話を聞く。
『お願いだから出してよ』
『ここはな、ちょっとした丘になってる場所なんだよ
近くにはもう使われていない工場がある』
閉じ込められてる女性の声など気にもせずに男は喋り続ける。
『ここからだとあの名所になってる教会も綺麗に見えるんだ
聞いてるか?わざわざ場所を教えてやってるんだ』
まるで自分が電話の向こうで話を聞いてる事を知ってるかの様に男は続ける。
『そうだそうだ、忘れちゃいけないよな』
そう言いながら低い笑い声が聞こえる。
『ここはな、もう使われてない旧道なんだよ』
見つけてみろと言わんばかりの男の声。
『なぁ、何でこんな事教えると思う?』
返事を待ってるのか?
『知らないわよ!』
女性が答えると。
『神様って信じるか?』
突然何言い出すのか、男の言動が分からない。
『俺はな、信じてないんだよ
もし、この世に神様ってのが居たとしよう
その神様があんたを死なせたくないと思ったなら、あんたはこの後助かる訳だ
だけど、神様なんてモノは居なくてあんたに助けもこなければ・・・
さぁ、どうなると思う?』
『何訳の分からない事言ってるのよ、早く出してよ』
『俺は見てみたいんだよ奇跡ってやつがあるのか?
だから、あんたには悪いがこのまま閉じ込められた状態で居てもらう
助けを呼びたければ呼べば良い、だけど簡単には見つからないだろうなぁ・・・』
薄気味悪い笑い声が聞こえてくる。
『なぜなら・・・』

ガタン!ガタン!


何やら叩いてる音とは違う音が聞こえてくる。
『え!何?
何やってるのよ』
女性の慌てた声が聞こえてくる。
音が止み静寂が訪れる、その静寂を破って男がそっと囁く。
『ここから落ちるからだよ』
耳元で囁かれたかの様にはっきりと聞こえた。
とても冷ややかに、そして全てを突き放すかのようなその声にぞっと背筋が凍る。
『落ちる?』
どういう意味だろうと思ったその時電話から物凄い音と女性の悲鳴が聞こえた。

ゴン!ガラガラ!ガン!
『きゃ!』

あまりの音に驚き携帯を床に落としてしまった。
落ちるという言葉の意味がパッと頭に浮かび、慌てて携帯を拾い上げると。
『もしもし、大丈夫?
ねぇ、返事してよ!』
電話から聞こえてくるのは。
ツーツーツーツー・・・
電話が切れてる。

『どうしよう?』
頭がパニック状態でどうしたら良いのか分からない。
必死で冷静に考えられる様に頭を落ち着かせる事に集中する。
『やっぱり警察に電話した方が良いよな?』
だけど、心の中の声は。
(どうやって説明するんだ?
誰がそんな馬鹿げた話を信じる?)
『だけどこのまま何もしないなんてできないし』
(よく考えてみろ、かかってきた電話は非通知だ
こっちからかけ直す事はできないし、誰かに知らせるにも証明もできない)
独り自問自答を繰り返す。
(ほら吹き扱いされるだけだ、放っておけよ
どうせ手の込んだ悪戯に決まってる)
『本当に悪戯なのかな?』
・・・
(よし、じゃこうしよう
明日起きたら図書館に行って地図などで男が居た場所を探してみる
該当する様な場所が無ければ悪戯でいいだろう?)
『そのやり方しか無いか』
1人で納得した後にもう一度朝まで寝る事にした。