(12)2014年1月8日

とうとうこの日が来てしまった。
そう、あの未来からの写真が届いた最後の日。
僕は最後に届いた写真を見ながら、迷い続けていた。
『この日が最後なんだよな・・・。行くべきか、行かざるべきか』
部屋の中をウロウロウロウロと落ち着き無く行ったり来たりを繰り返していた。
届かなくなったあの日からずっと頭から離れなかった未来からの写真。
僕は届いた写真全てをプリントアウトしてandroidと一緒にシザーバッグに入れた。

車で2時間ぐらい走ると隣の県に入る。
適当な所で車を止めて、androidで去年のメールを確認。
目的地をセットしてandroidを適当な所に置いた。
『ここまで来たんだ、もう後戻りはできない』
そう自分に言い聞かせ、また車を走らせる。
進路を音声で案内されながら進んで行く、来た事の無い場所なのに見覚えのある風景に気づいた。
急いで車を止めて先ほどの見覚えのある場所まで何かに取憑かれたように走って行く。
『やっぱり、ここだったんだ』
僕はシザーバッグから写真を取り出して同じ場所に今いる事を確認する。
『あの落札者の人だったんだ、この写真を撮った人は』
近くのコンビニに立ち寄り、写真の場所を聞いていく。
その場所へ車を走らせ、写真と見比べる。
心が躍っていた、未来からの写真と同じ場所に今自分が居る事に。
そして同時に写真を撮った人物に近づいている事に。

日は沈み始めた頃僕はお屋敷の入り口らしき前にいる。
落札者の住所に書かれている場所なんだが、 完全に自分とは別世界の住人である。
とりあえず自分の身なりを確認しながら・・・
『この格好って門前払いだよな』
ラムレザーのシングルライダースの革ジャンを着て、ジーンズにタータンチェックのシューズ。
髪はぼさぼさに近い・・・
『何も考えてなかった、あの写真はやっぱり庭だったんだなぁ・・・』
この時誰かが通ったら、どうしようか悩みながら入り口でウロウロしてる姿は完全に不審者に思われただろう。
だけどその時の僕はそんな事考える余裕も無かった。
『何から話せばいいんだろう?絶対に頭がおかしいと思われそうだし・・・。こんなお屋敷だとお手伝いさんとかいるんだろうなぁ、お手伝いさんになんて説明すればいいんだろう?』
そんな事をぶつぶつ呟いていた。
完全に不審者だ!
そんな時だった、突然入り口が開いて中から婆さんが出てきた。
『えっ!』
『どちらさんかね?何か御用でも?』
完全に怪しまれていた。
婆さんの手には何かの為にだろうか、竹刀が握られている。
いつでも攻撃できるように少し身構えてもいた。
絶対不審者じゃん僕・・・
『あ、あのう・・・』
声をかけようとすると、婆さんは迎撃態勢に入る。
『あのう、怪しい者じゃないんです。いや、怪しいか・・・』
自分で怪しいと認めてどうする。
完全に身構えたまま婆さんが。
『何しに来た。当家とは全く無縁のようじゃが』
竹刀を向けられて、ますます焦ってしまう。
『いや・・・その・・・あれです、ほら・・・』
情けない事に会話になっていない。
僕はあたふたしながら一枚の写真を差し出していた。
その写真を見て婆さんはさらにキッ!と睨みつけてくる。
『若造、この写真何処で手に入れた。言わねば・・・しばく!!』
竹刀を打ち込む体勢に入る。
目の前の婆さんからは物凄い殺気が放たれていた、疎い自分でも只者じゃない事がわかる。
必死でシザーバッグから残りの写真を出して婆さんに渡すと。
『それ・・・、あの、ぼ、僕のカメラに入ってたんです。その、突然・・・突然止まっちゃったから・・・』
そう言うのがやっとだった。
我ながら情けないと思いながら。
『若造、この写真はお前さんのカメラに入っていたというのか?』
手渡した写真を見た婆さんからは先程の殺気は消え、今度は驚きに変わっていた。
何度も食い入るように写真を見ては、僕を見る。
そんな事を何度か繰り返してから。
『ちょっとそこで待っておれ』
そう言うと婆さんは屋敷へ向かった。
入り口から屋敷まで結構距離がある、いったいどんな暮らしをしてるのやら?
『僕の部屋がすっぽり庭に何部屋か入るな』
住む世界が違う・・・
こんな所に住んでるのに何でオークションで落札したんだろうか?
いろんな疑問が降って涌いてくるが、悲しくなってくるので考えない事にした。
暫くすると婆さんが戻って来て。
『旦那様の許可をもらったからついてくるんじゃ』
そう言った婆さんの顔はどこか寂しげだった。
それ以降何も会話は無く、僕はただ婆さんの案内で屋敷の中に入る。
屋敷の中はテレビで見る富豪の家そのものだった、ある所にはあるもんだなぁと思いながら後をついていく、するとある部屋の前で婆さんが立止った。
目的の部屋に着いたんだろう。
『今からお嬢様にお前さんを会わせる』
その一言が何故か重く感じた、婆さんもあまり喜んではいないようだった。
ドアが開き婆さんの後について部屋に入ると、ベッドに眠っている女の子がいた。
ベッドの周りには計器が置かれ点滴や管がベッドに眠る女の子に繋がっている。
『あの・・・』
婆さんにどういう事か聞こうとした時。
『お嬢様は今朝あのカメラでいつもの様に写真を撮っていました。だけど突然発作が起きて倒れてしまわれた』
『倒れたって・・・どこか体が悪いんですか?』
『お嬢様は幼い頃から心臓が弱く、あまり学校へも行けなかった。いつもベッドでパソコンを使ってネットの中に見る外の世界を楽しみにしていての。そうしている内に自分でも写真が撮りたくなり、お前さんがオークションに出したあのカメラを手に入れた訳だ。お嬢様にはこの庭が外の世界、たまに旦那様の許しがある時だけ学校へ行ったり、屋敷を出て風景を撮っておられた』
『何であのカメラだったんです?』
僕はベッドの近くに置かれているカメラを見ていた、とても大事にされていた事が誰が見ても分かるだろう。
カメラの近くには使う度に拭いていたのかウェスとブロアーまで置かれている。
他にも自作したレフ板もあった。
『ネットでこのカメラを見て一目惚れした様で、たまに学校へ行く時にいただいていたお小遣いを貯めた中から購入できそうな中古を探しておられた。そしてオークションであのカメラを見つけ意地でも落札するんだって・・・』
こんな事を言っては失礼かもしれないが、僕はてっきり買ってもらったのかと思っていた。
これだけの屋敷に住み病弱とくると、ドラマなんかだと何不自由無く買い与えられ、やりたいように育てられてるそんなイメージがあった。
だけど現実にみる彼女は籠の中の鳥。
許しが出た時だけ学校へ行く、その学校の時にもらったお小遣いをちょっとずつ貯めていたんだろう、ミラーレスと言っても初期型だったし、僕が結構使ってた事もあり所々傷もついていたから実際落札金額は高くはない。
たぶん言えば簡単に最新機種を買ってもらえたんだろうけど、それをしなかったと言う事なんだろう。
『良くなるんですよね?』
僕はこの日を境に写真が届かなくなった事を黙っていた。
『お医者様のお話ではまだ分からないと・・・今も会話は聞こえてるとのことですが、いつ以前の様になるか・・・』
突然写真が届かなくなった理由は彼女が倒れてしまい写真を撮れなくなったからだった。
そしていつまた撮れるようになるかは分からないと・・・。
『声は聞こえているんですよね、話しかけても良いですか?』
婆さんは一つ頷く、僕は彼女の側まで歩いて行く。
『よっ、元相棒。大切に使ってもらってたんだなおまえ』
ピカピカとまでは傷だらけだからいかないけど、大事にされている元相棒のカメラに挨拶を。
ベッドに眠る彼女に僕が出来る事、それは話しかける事しかない。
これからも彼女が目を覚ましもう一度このカメラを手にするまで、僕は何度でも足を運ぼう。
そしていつの日か一緒にいろんな所へ出かけて写真を一緒に撮っていこう。

『はじめまして、2013年の写真家さん』