中に入ると映画に出てくる社交界の様な派手な作りとは違い、何やらよく分からない石像(?)の様なものや、これは何を描いたんだろうと思う絵画、壁はどちらかというと暗い色で統一され、室内は明かりがあってもどことなく暗く感じる。
石像の様なものは架空の生き物を彫刻しているようだ、西洋のドラゴン、何かに出てきそうな神か悪魔の様なもの、壁にかかった絵画は何処か判らない風景、地獄を連想しそうなもの、中には日本で言う所の幽霊を描いたんじゃないかと言うようなモノまであった。
『何か凄い趣味の持ち主なんですね、ここの旦那様って』
莉杞は男性に話しかけて見るが返事は。
『莉杞様こちらへどうぞ』
と、案内するだけだった。
男性の後をついていく、迷路の様な通路を迷う事なく進んでいく、通路にも世界中から集めてきたんじゃないかと思うくらいの奇怪なモノが壁や通路に飾られている。
『絶対に一人じゃ歩きたくない家だわ』
男性が相手にしてくれないので独り言を繰り返しながらついていく。

しばらくすると男性は一つのドアの前に立ち止まった。
やっと目的の場所にたどり着いたようで、ドアをノックする。

コンコンコンコン

『旦那様、莉杞様をお連れしました』
すると中から。
『やっと来たか、入れ』
ドア越しに聞こえてきたその声はちょっと若い感じに思える。
男性がドアを開け『どうぞ』と言わんばかりに中に入る様に手で合図をする、莉杞は少し緊張しながら部屋に入っていく。
広い部屋ではないけれど、部屋の中は建物同様に奇怪な置物などが所狭しと並べられ、異様な雰囲気を醸し出していた。
莉杞がキョロキョロと部屋を見回していると、何処からか声が聞こえてきた。
『人間、そんなに珍しいか?』
莉杞は声の主を探すが、部屋に所狭しと飾られた置物などで何処にいるのか分からない。
そんな中、声の主を探していると。
『俺様ならさっきからここに居るんだが』
そう言うと、向いの棚?それとも机?らしき家具に山積みになった本がバサァと無理矢理どけられ、その開いた空間から自分とあまり差が無い16〜17歳ぐらいの男の子の顔が現れた。
開けられた空間の奥には窓もある、どうやら机の上に棚や本などが置かれていた様で声の主が埋もれていたみたいだ。
『遅い!どれだけ俺様を待たせる気だ?』
男の子は莉杞に向けて怒鳴った。
『え?私が悪いの?』
突然怒鳴られて何が何だか分からず、男の子に聞き返す。
『他に誰がいると思ってるんだ?ここにはお前みたいな奴しか来れない。そのお前がちんたらちんたら来るから俺様が待たされる結果になった事も分からんとは・・・』
今度は嘆く様に男の子が言う。
『あのう、どういう事?』
莉杞は訳も分からず男の子に聞き返す。
『ふぅ・・・。全くこれだから人間は面倒なんだ』
やれやれという風に男の子が莉杞に話す。
『あのな人間、ここはお前達が言う所の夢の世界みたいなもんだ。さらに言えば、ここに来る事ができるのはごく一部の限られた人間だけ。ごく一部の限られた人間とはお前みたいな奴の事を言う』
『え?私みたいなって??それに夢の世界ってあまりにも似つかわしくない様な?』
莉杞は夢の世界と言われて、あまりにも想像する世界と違うと思った。
莉杞の思う夢の世界はもう少し明るく希望に溢れていそうなそんな世界を想像したからだ。
だけど、窓から見えるこの世界はどちらかというと映画に出てくる悪の組織が住んでいそうな世界で、部屋の中は奇怪な置物や読めない文字の書物などが散乱している、どう見ても夢を連想する様な場所ではなかった。
そんな事を考えてると、目の前の男の子の眉がピクピクと動いてる事に気づいた。
『何か、変な事言いました?』
恐る恐る聞いてみると。
『何が・・・悪の組織が住んでいそうな世界だって!』
少しお怒り気味のようだ。
『人間お前は何も分かってないな。お前達は勝手に夢の世界が希望に溢れてバラ色の世界の様に思ってるかもしれないが、それは勝手な想像であって』
『旦那様!』
男の子の話を男性が止めた。
男の子はふぅと一呼吸すると改めて。
『まぁ良い、ここはさっきも言った様にお前みたいな人間しか来れない場所なんだ』
『私みたいな人しか来れないってどういうこと?』
そうだ、さっきこの男の子はそんな事を言っていた、私みたいな人しか来れないと、どういう意味なんだろう。
『人間、よく聞け。この場所はありとあらゆるこの世に存在する世界の丁度中間に位置する場所だ。場合によってはそれぞれの世界に干渉する事もできるし、傍観する事もできる。そして、お前達の世界で言う所のトラブル処理的な事もできる』
?マークが莉杞の頭の上に幾つも出ていた。
『鈍いなぁ』
飽きれた様に男の子が言う。
『つ・ま・り。お前の様にトラブルが起きていないとこの世界には絶対に来れないんだ』
『え?トラブルって??』
『今お前は身近で異変が起きているはずだ』
そう言われて莉杞は沙織の事を思い出す、突然何かに取憑かれた様に変わってしまった友達の事を。
『人間、この世界はどういう風に作られてると思う?』
沙織の事を考えていると突然男の子が質問してきた。
『どういう風にって・・・』
『お前の思う世界は一つしか無いと思うか?』
『どういう意味?』
莉杞はこの男の子が何を言いたいのか分からなかった。
『まったく・・・人間よく聞け!この世界は幾つもの無限に近い世界でなりたっている。例えば、今お前が俺様の目の前にこうしている世界と、俺様の目の前にいない世界が同時に存在している。決してそれぞれの世界は交わる事は無い、まぁ近づく事はあるがな。その近づいた時がお前達が言う所の寝ている時に夢を見た状態だ』
分かるか?と男の子が莉杞の顔を見ると、そのまま話を続ける。
『お前達の言う正夢と言うのは、お前達に近い別の世界が近づいて”たまたま”その時に波長が合う事で夢として見た別の世界なんだ。お前達の世界と近い別の世界だから偶然に夢で見た事がお前達の世界でも起きる事でお前達はそれを正夢、つまり夢で先の出来事を見たと思ってるだけでしかない』
一呼吸して男の子は話し続ける。