いつか時間は進む

もしかすると皆さんにも起きているのかもしれません。
気づかないだけで。

「ねぇ、そこのスマホ取って」
『はぁ?めんどくせぇな』
「良いじゃん、近いんだし」
【取ってあげなよ、一番近いんだしねぇ】
『ほれ、これぐらい自分で取れよな』
「さすが、そう言いながら取ってくれるんだから」
【優しいもんね】
『うっせぇ』
「そういえばさ、PINEみた?」
『PINE?見てない』
【私も見てないかも】
「見ろよ!スルーしてんじゃねぇ」
『えぇ、俺PINE普段使ってねぇし、何かあったん?』
「もう・・・5年経ったから今度どうするんだろうと思って」
『あゝ、もう5年になるんだっけ。早いよな』
「そうだね、あの事故さえなければ・・・」
『・・・』
【・・・】
「覚えてる?あんたがギター折っちゃった時のライブ」
『あのライブは酷かった。リハ待ちの時だったからやる気が一気になくなってさ』
【おい!】
「突然電話で、ギター折れたから家から持って来てって、大変だったんだから」
【あったね、ネック折れたーって】
『持って来てくれなければギター借りるしかなかったからな』
「ちょうどあんたの家に行ったときに彼女いて開けてくれたんだよね」
『そりゃそうだろう居るの分かってたし』
【それ、覚えてる。まだあの時二人知らない者同士だったから】
「出るタイミングだったから良かったものの・・・」
『大丈夫ちゃんと連絡入れてたから』
【そういう問題じゃないと思うよ】
「あの後微妙な空気だったんだからね、彼女に持って来てもらえばいいものを私に取りに行かせたから」
【そうそう、何でこの人なんだろうって、どんな関係なんだろうって】
「だってあの時ライブまでの時間ちょっと買い物行くって言ってたから、持って来させるのも悪いと思って」
「あんたねぇ」
『身近の彼女より、パシリにできる友達って言うじゃん』
「パシリって・・・」
【それ、酷い】
『冗談、冗談』
「他にも頭痛くて車運転できないから車ごと運んでとかも」
【そんなこともあったの?】
『あれ、おまえだっけ?誰に電話したか覚えてない』
「あんたの車でかかったから友達にさらに頼んだわ」
『記憶にないなぁ』
「そりゃそうだろうね、熱出して後部座席で寝てたし」
『そりゃ、悪いことしたな。まぁ昔の事だ気にすんな』
「まぁ、そういう奴だよね、あんたって」
【本当にあんたって人は・・・】
『で、どうすんの?』
「ん?あゝ私は行こうかと思ってるけど、そっちはどうするの?」
『どうするかな、あんまりあゝいう場は好きじゃないんだよね』
【好き嫌いじゃないと思うんだけど】
「5年目なんだから出なよ」
『まぁもう少し考える』

そう、あの事故から早5年。
5年という歳月はあっという間で、だけど時間の流れに取り残されている感じで過ごしていた。
楽しかった事、喧嘩した事、悔やんだ事、今となっては思い出の中にしまい込んで。
5年目の今日、僕は独り彼女の眠るここに来ていた。
『あっち人がいっぱい居るからこっちに来た』
【だろうと思ってた】
直接報告したい事もあったし、静かに一緒に少しの時間を共有したかった。
『別に好きな人ができた訳じゃないけど、そろそろ前に進もうかと思ってる』
【うん】
思い出さない日は無いと思う、だけどいつまでも立ち止まる事も出来ない。
だってそんな姿は望んではいないだろうから。
『またな』
【またね、私もやっと安心して往けるよ】
背中からそっと風が包み込む、まるで“もう大丈夫だね”と言われているように。