第五章 旧道

目的地に着いてから図書館でコピーしてきた地図を取り出す。
『ここからが丘になるんだけど、旧道への道が分かるかが問題なんだよな』
まだ明るい午後だというのにほとんど車や人を見ない。
夜なら誰にも気づかれないかもしれない、そう思ってしまうぐらい静かだ。
古い地図のコピーに書かれてる道をペンで塗りつぶす、その上に新しい地図を重ね太陽にむける。
『丁度中間地点辺りから新道になってるのか』
緩やかな坂道を上って行く、何事も無いかのように道は続く。
今日みたいな目的じゃなければ、景色を十二分に楽しめただろう。
新緑の間から差し込む日差しが優しく包み込む、日頃の疲れなど忘れてしまうぐらい本当なら癒されたはずだ。
だけど、今日ここに来たのは電話が本当なのかを確かめに来ている。
本当なら助けなくてはいけない。
癒しなど程遠い状況なのである。
マウンテンバイクをこぎながら脇道が無いか注意深く上って行く。
しばらく上った辺りにガードレールの向こうに道らしきものがありそうな茂みが見えた。
マウンテンバイクをガードレールに立て掛け近寄ってみる。
ガードレールと茂みで分かり難くなってはいるが、茂みの奥にアスファルトがボロボロになり、雑草が所々から伸びている旧道があった。
『ここか、旧道は』
まるで別世界へと導く異界の入り口の様にひっそりと続いている。
『よくこんな道知ってたもんだ』
注意して見ていないと気づかない人が大半ではないだろうか?
『行くしかないな』
マウンテンバイクを担ぎ、ガードレールを超えると再びマウンテンバイクでデコボコの旧道を走りはじめる。
『まずは工場を探すか』
旧道は緩やかな坂道ではあるが、アスファルトがボロボロで道無き道と化している。
使われてない道はここまで酷くなるんだと感心しながら工場を目指す。

デコボコ道を上って行くと少し開けたところに出た。
そこからはK市が一望できる。
緩やかな坂道といってもやはり疲れは出てくる、少しその場で休憩する事にした。
心地の良い風が吹いてくる、少し汗ばんだ体を優しく包み込んでくれる様な風である。
『こんな場所があったのか、夜景綺麗に見えるかもなぁ』
(ん?
今なんて言ったっけ?)
ふと自分がさっき呟いた独り言を思い出す。
『夜景が綺麗に見える場所・・・』
電話で確かそんな事を言っていた事を思い出した。
坂道の先を注意深く見上げると、建物らしきものが小さく見える気がする。
『あれが工場なのか?』
だとしたら・・・
古びたガードレールから身を乗り出して下を見ると、少し下の方に何かが横たわっている。
『まさか、あれが?』
バッグから持ってきていたロープを取り出し、ガードレールに結ぶ。
結び終わるとロープの残りを下に放り投げた。
『長さは一応足りてるみたいだな』
下に放り投げたロープの先が横たわってる何かの近くまで落ちてるのを確認して。
落ち着く為に深呼吸を数回、頭の中では電話が本当の事でもしかするとあの中に人が入ってる可能性が出てきた事で少しパニック気味になっている。
もし、あの中に人が居たなら怪我をしてるかもしれない、その時はどうやって上まで連れ出せばなどいろいろな事が頭を駆け巡る。
『中を確認してから、それから考える事にしよう』
1人雑念を払うように自分に言い聞かせる。
まずは確認だ、後の事はそれから考える。
何度も自分の中で繰り返し言い聞かせて、パニックになりかけた頭を一つの事に集中させる。
『よし、下りるか!』
ガードレールをまたぎ、ロープを伝って下へ降りて行く。
コンクリートで補強された側面には苔も生えて滑りやすくなっていた。
滑り落ちない様に注意しながらゆっくりと下へ向かう。
それほど高さ的には無い場所だけど、引っかかってる場所がどのような状態か分からない。
確認ができない以上ある程度降りたからと言って途中から飛び降りるわけにはいかない。
慎重に横たわる何かの場所まで降りて行く。
ようやく横たわる何かが引っかかってる場所まで到着すると、ロープを握ったまま足下を確認する。
いきなり足下が崩れると大惨事になりかねない。
足下を確認して安全だと分かると横たわる何かに近づいて行く、近づいてみて初めて横たわっているのが冷蔵庫だと分かった。
だけど、不当放棄では無さそうだ。
なぜなら冷蔵庫はロープで開かない様にぐるぐる巻きにされている。
まるで中に詰めたものが外に出ない様に厳重に何回も何回も巻いてある。
『これって・・・』
冷蔵庫をよく見たとき違和感を感じた。
『昨日の事だよな』
違和感の正体、それは冷蔵庫が何年も風雨にさらされた様に錆と苔に覆われていたからだ。
『見つかり難くする為に古い冷蔵庫を使ったのか?』
疑問は残るが、まずは確認する必要があった。
冷蔵庫をノックしながら中に居るかもしれない相手に話しかけてみる。
『大丈夫ですか?
今開けますからね』
中からの返事は無い・・・
(やはりこの冷蔵庫は違うんじゃないだろうか?)
本当に悪戯かもしれないと思いながら、冷蔵庫に巻かれたロープを解いていく。
全てはこの冷蔵庫を開ければわかる、あの電話が本当だったのかと言う事が。
ロープを取り除き冷蔵庫をゆっくりと開けてみる。