第四章 心を落ち着かせ
『またよく分からない事言われたし・・・』
朝目覚めての一言である。
そう、獏から次に探してこいと言われたモノは何か分かり難いモノだった。
あの後ディストーションを飲みながら獏の屋敷で次に必要なモノについて話をしていた。
『次に手に入れてもらうものは何種類かある。それらを混ぜ合せたモノが必要なんだ』
『何それ?』
『聞こえなかったか?何種類かを混ぜ合せたモノが必要なんだ』
『何種類って何種類よ?』
『まったく・・・人間おまえは相手の話を終わりまで聞くという事を知らんのか?質問があるなら話が終わった後にしろ』
『だって・・・』
獏に睨まれて言いかけた言葉を飲み込んだ。
『今度探すのはお前達の世界で言うと、トランス状態に入る為に必要な香りだ。儀式をおこなう場合一種の呪術的な要素が加わる事になる、他の空間と接触させる訳だから精神を研ぎすませる必要があるんだ。だからと言って極度の緊張感があるとそれは失敗してしまう事に繋がる、そうだな・・・憑依や脱魂などと言われる状態だと言えばわかるか?』
『う〜ん・・・分かった様な、分からない様な・・・』
『一種の催眠状態に入ったと言えば分かるか?』
『う〜ん・・・』
『トランス状態は人によって多少変わってしまうからな、第三者が見てそれだと分かる状態と軽度のものであればあくびをしてるだけの状態もあるから、疑う者も出るのもたしかだ。また宗教的な受け捉え方をする事が多いだろうが、実際は治療にも使われてたりする事もあるんだが、知ってたか?』
『聞いた事はあるけど、なんかテレビを見ててもヤラセじゃないかって思っちゃって』
獏は少々呆れ顔になっていた。
『まぁいい、別の世界と自分の世界を繋ぐ為には一種のトランス状態を作る必要がある、他の世界を見る訳だからな。だが今回はそれを見るだけじゃなく引き寄せてしまった、かなり特殊な例だと言える。本来儀式をおこなった場合、別の世界を見るか引き寄せるかのどちらかになるんだ、引き寄せて入れ替わればお互いの世界にそれぞれ行くん事になる、だけど今回はどうやら見ている最中に取憑かれたと言えば分かるか?本人の意思とは別に違う世界の自分がこちらの世界に乗り込んで来た。その為に一つの世界に別の世界の人格と体を共有する事になってしまった。だがこれは凄く不安定なものでどちらかが支配権を持てばもう一つの人格は消えてしまう。入れ替わりじゃないんだ』
獏ははっきりと消えてしまうと告げた、今のままだと沙織は私の知る沙織ではなくなってしまう可能性があると。
それに香りと言ってもいったいどれだけの数があると思っているんだろう。
『集める香りは3つだ。簡単だろう?』
『3つって言うと簡単に思うけど、どうせまた分からないとか言うんでしょ?』
『人間、おまえは本当に失礼な奴だな、俺様を誰だと思ってるんだ。3つの内2つまでは分かってる。おまえは残りの1つを探すだけですむんだ感謝しろ』
どうだと言わんばかりに獏はふんぞり返る、だけど・・・
『全部じゃない訳ね・・・』
『何か不満そうだな、何なら黙っておくから自分で3つ探すか?』
『ああああ、1つで良いです。残りの1つを責任もって探します』
『仕方ないなぁ、よく聞けよ人間。この心優しい俺様が教えてあげるんだからな』
ここぞと言わんばかりに獏はふんぞり返って続けた。
『まず一つ目は、ゼラニウムだ。そしてもう一つは・・・』
チラッと莉杞を見る。
『勿体ぶらずに教えてよ』
『ふふ〜ん。もう一つは香りとしてはよく使われてる。人間お前もよく知ってる香りだ。火傷の時に使ったり、直接塗布する事もある』
『ラベンダー?』
『そうだ、ラベンダーだ。この2つが分かっている2つだ。あとの一つは思い出せなくてな、香り的にはウッディーでわずかにレモンの様でスパイシー。かつては人間に取憑いた悪霊を追い払う時に使われていた。だがいまいち名前が思い出せないんだ』
『それだけじゃ分からないよ。そんな感じの香りって結構多いはずだし』
『まぁ、ちょっと待て。今思い出してるから・・・』
獏はぶつぶつと呟きながら頭を整理しているようだった。
『お前達の世界で中国ってところがあるだろ?そこではハンセン病の治療に用いられてたはずだ。エジプトでは神々に献げものとして祭壇でたかれた事もあった。瞑想の時使われる事が多かった香りなんだが・・・、名前が思い出せないんだよな・・・』
思い出しそうで思い出せないイライラが獏を襲っているようだった。
そんな獏を莉杞は少し楽しげに見ながら。
『う〜ん・・・、仕方ないから前回同様にググってみるよ』
莉杞がそう言うと。
『偉いな人間!俺様が言わなくてもちゃんと自分で調べる事を考えるとはなぁ』
うんうんと頷きながら獏はご満悦のようだった。
『ねぇ。いつも思ったんだけど、何でそんなに分かるの?』
ん?と獏が莉杞を見る。
『だって、まるで見てきた様な感じだし。何を使ったかなんて分からないと思うんだけど?』
『俺様にお前達の時間という概念があると思うか?ある程度の事なら先を見る事も出来るし、遡る事も出来るんだ。ただ、こう言った儀式的な事で歪みが生じた場合だと鮮明に見る事が出来ないんだ』
『頼りないなぁ』
『それぞれの世界は本来交わる事が無いからな、頼りないと言われても仕方が無い部分もあるんだ』
『そんなもんなんだ』
『ここも例外じゃないからな、どの世界にも行ったり見たりは出来るが、それは俺様だけの話であって、それ以外の者が無理矢理空間を作って歪ませた場合は簡単には修復できないからな』
確かに獏は莉杞の世界にやってきていた、ただ実体を持つには時間はかかるみたいだったし、それぞれの世界が交わる事は本当に難しいんだと莉杞にも何となく分かった。
『ねぇ、この香りが全部揃ったらどうしたら良いの?』
莉杞は本題に移る事にした、香りを揃えてもただ焚けば良いって訳でも無さそうだし。
『よくその事に気づいたな。簡単だそれぞれを50mlに対して濃度2.5%で適切な量でブレンドするんだ』
『適切な量って?』
『適切な量だ』
『いや、それじゃ分からないし・・・』
獏は一つ溜息をつくと。
『ググれ』
と笑顔で答えた。
獏からのヒント!
前回は何通かメールを貰ったが、今回は特別にこちらでヒントを教えてやろう。
メールの設定が面倒だとか思ってるんじゃないだろうな?
正解だ!(おぃ
まず、50mlに対しての濃度を計算する、精油の一滴をいくらで計算するかにもよるが、今回は一滴を0.05mlとして計算する、そうすると50mlに対して何滴使用すれば良いのかが分かる。
その後その滴数に対して各精油の比率を計算する。(ブレンドファクターを使う)
計算方法はググれ。
滴数に足りない場合は少ない精油に足りない分を振り分けてくれ。
出てきた滴数を表示された窓に書き込んでくれ。
書き方は、ge?-la?-??だ。
geはゼラニウムの事で?に半角数字で滴数を、laはラベンダーの事で同じく、??は残りの一つを半角2文字と滴数で書き込んでくれ。