ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ

目覚ましが騒々しく朝を告げる。
いつもと同じ時間、規則正しく刻む針がその時間をさしたのだ。
『う〜ん・・・』
大きく伸びをして体中に酸素を送り込み頭から足先まで”起きる”という指示を送る。
何気ないこの動作が朝の目覚めには必要だった。
特にこの数日頭がモヤモヤしてスッキリしないことがあり、この動作が自分が自分であることを確認する儀式にもなっていた。
早々に身支度を済ませ、朝食の準備にかかっていると。

お〜い、電話だよ!

携帯が着信を知らる。
『もしもし、おはよう』
『おはよう、今日はどうだ?』
『うん、ぼちぼちかな』
『お母さんからは連絡あったか?』
『まだ、何処にいったんだろうね?今まで突然旅行に行くことはあったけど何も連絡無いのは初めてだし』
『そうだよなぁ、いつもなら連絡ぐらいはあるはずなのにな』
『一応何かあったかもしれないから警察に連絡はしておいたよ』
『そっか、お母さんのことだからたぶん大丈夫だと思うんだが』
『お父さんはちゃんとご飯食べてる?単身赴任だからって不健康な毎日を送っちゃ駄目だよ』
『あはは、お父さんは大丈夫だ!こう見えて若い頃は自分で料理なんかもしてたんだぞ』
『ちゃんと食べれるの?』
『失敬な。今度帰った時に自慢の腕を見せてやる、驚くなよ』
『じゃ、今度帰ってきた時に料理対決だね』
『望む所だ!』
『さて、そろそろ学校に行く準備に入るね』
『おう、そうだったな。遅刻するなよ我が娘よ』
『もう、遅刻なんてするはず無いじゃん!いつも朝は図書室って決まってるんだから、もう少しで読み終わるんだよ』
『そうか、気をつけて行ってくるんだぞ』
『うん、莉杞と一緒に行くから大丈夫』
『お父さんも頑張って仕事してくるか。じゃ、いってきます』
『いってらっしゃい』
この数日の話題はお母さんのことが入っている、いつもなら突然旅行に行ってもちゃんと連絡をしてくるはずなのに今回はそれが無かった。
いや・・・
私はその理由を知っているかもしれない。
してこないのじゃなく、できないのだと。
あの日の朝に見た光景、あれは夢じゃなかったのかもしれない。
台所が血の海になり、そこに倒れていた。
微かに記憶に残っている、やったのは自分だと・・・
だけど、そうする理由が私には無かった。
それに目が覚めた時には台所はいつもの通りだった。
『夢・・・だったんだろうか?あれは私の願望だった?』
合せ鏡をやった時からどうもおかしい。
自分が自分じゃない時があるように思えていた。
まるで心の底の牢獄に閉じ込められている感覚がたまにある。
自分じゃない自分の行動を檻の中から見るしかできない、そんな感覚の時がある。
必死で叫ぶけれど、自分の考えとは違う行動をとっている、その時の行動は普段私がとらない行動のように思える。

自分とは正反対の行動

『今までこんなこと無かったのに・・・』
精神的に疲れているのだろうか?
合せ鏡をやったとき緊張もしていたから?
それとも気づかない内に日々のストレスが溜まり、現実と夢が分からなくなっているのだろうか?
沙織は自分が怖くなっていた、いつか周りを傷つけてしまうのじゃないかと。