莉杞は家に辿り着くとそのまま部屋へと上がり、ごろんとベッドに横たわりながら獏から渡された勾玉を見ていた。
何とも言えない不思議な勾玉、どんな秘密があるのか分からないまま時が過ぎていく。
ずっと見ていても飽きがこない、たまに揺すってみれば勾玉の中に波紋が広がる。
『たんなるお守りみたいなものなのかな?』
また勾玉を揺する。
『揺すっても何もならんぞ』
何処からとも無く聞き覚えのある声が聞こえる。
『えっ!?』
飛び起きて周りを見回すが誰も居ない。
莉杞は自分の両頬をパチンと叩いて自分が今起きていることを確かめた。
『痛い』
両頬を摩っていると。
『人間、お前は馬鹿か?』
また声が聞こえた。
莉杞は部屋を見回すが誰も居ない、居る方がおかしいのだ。
なんせ今は自分の部屋に一人居るのだから、自分以外部屋に居ない事が当たり前なのである。
『まったく・・・』
ぼそっと声が聞こえた。
莉杞は声がしたであろう場所に目を向けるが、何も変わらずいつもの自分の部屋でしかない。
『まだ不完全だからな、見えなくて当然だ』
たぶん声の主は獏だと思う、自信は無かったが莉杞はそのつもりで話しかけた。
『眠ってなくても話せるんだ』
『言わなかったか、俺様はどの世界にも干渉する事ができると。ただまだ今は不完全な存在でしかないがな』
『不完全な存在?』
眠りにつかないと会えない存在だと思っていただけにちょっと意外だったが、何となく不完全な存在の意味が分かる様な気もしていた。
『ある程度気づいているだろうが、俺様は本来この世界には居ない存在だ。正確にはどの世界にも居ない存在なんだが。その俺様がこの世界に存在するにはある手順が必要なんだ、その一つがその勾玉だ』
莉杞は持っていた勾玉を見つめ、この不思議な勾玉が獏をこの世界に導くモノだから手渡されたのだと分かった。
『ねぇ、私は何をしたら良いの?』
見えないが確かにそこに居るであろう獏に話しかける。
『まずはあるモノを探してもらう』
『あるモノ?』
『この世界ではどういった形になってるのか分からないが、儀式を行う上でとても大事なものになる。それをまずは探し出し確保するんだ』
『それってどんなモノなの?形が分からないって言うのも余計に分からないんだけど?』
『各世界で形が必ずしも統一されてる訳じゃないんだ、液状の場合もあれば、固形の場合もある、そう言った事もありこの世界でどういった形になってるのか分からない。だからと言って全てが違うかというとそれも違う、統一されてる事を頼りにそのモノを探す必要がある』
『統一されてる事って何?』
『それは色だったり、意味だったり、用途だったりする』
獏の説明から同じ様な世界でもやはり微妙な違いがあるのだと言う事が分かり、それだけに莉杞がこれからやらなければいけない事が簡単ではないと判断できた。
沙織を助けるには改めて気を引き締める必要があった。
『ねぇ、一つ知りたい事があるんだけど?』
『ん?何だ』
できることなら知っておきたい事があった、もしその方法があるならと獏に尋ねる事にしたのだ。
『あのね、沙織の事なんだけど・・・どうすればどちらの沙織なのか見分ける方法ってあるのかなって思って』
獏は少し考えていたが、しばらくして。
『無いことも無い、が!難しいかもな』
『どういう意味?』
『正直アイテム的なものは無い、ただ人格が入れ替わる訳だから当然行動その他に違和感が出てくる。ただそれを見分けるには相手の行動を把握する必要がある。普段の仕草などに少なからず変化があるからな、別の世界は似て非なるものだ、例えばこの世界でいつもやる癖の様なものが別の人格だと無かったり、そんな感じでどこか違ってる点が必ずあるものだ』
『やっぱり簡単には無理って事か・・・』
『そりゃ、別の人格と言っても全くの別人ではなく本人には違いが無いからな』
『そうだよね・・・分かったそれは自分で何とかしてみる』
簡単な見分け方などあるはずが無いことなど莉杞も分かっていた、もし簡単な方法があるならとちょっとだけ期待したのも事実だったが。
『ごめん、話を戻すけど』
改めて沙織を救う方法を獏に尋ねる事にした。
『沙織を助ける為に私が探すモノは何を手がかりに探したら良いの?』
たぶんそこに居るだろう姿の見えない獏に意識を集中させる、一言も聞き逃さない様に。
『さっきも言ったがまずこの世界でどんな形で存在しているのか俺様は知らない、特徴としてまず色は黒色なんだが一般的には銀色をしている』
『黒なんだけど銀色って?』
『まぁ聞け、黒の理由は酸化してしまうから黒になる、だから加工されて一般的には銀色になっているって事だ、これはどの世界でも一緒だ』
『酸化してって事は鉄とか何か酸化しやすい物質が混じってるって事だよね?』
『そこまで俺様は知らん、あまり興味が無いからな』
それを言ったらお仕舞の様な・・・と思ったが黙ってる事にした。
『他に手がかりってあるの?』
『そうだなぁ・・・』
またしばらく獏は考えてるようだった。
姿が見えないから本当に考えてるのかも分からないが、今は獏を頼るしか無い。
『あれだ・・・あれ・・・宇宙と繋がる力も持ってる。あとは・・・次の段階へ魂を導くとも言われていたはず。隕石に関係していたと記憶しているが何だっけなぁ?』
とまた獏は黙ってしまった。
『ちょっと、大丈夫なの?私にはとても重要なんだけど』
莉杞は心配になってきていた、本当に獏を頼るだけで良いのだろうかと。
先ほど頼るしか無いと思った自分の意見を撤回しようと思った程だ。
『おお、そうだ。確かこの世界ではウィンドマン何とかが関係してたはず!これでも一応屋敷で調べてたからな』
『何それ?』
『知らん!!』
『知らんて・・・』
莉杞は目の前がクラッときたがぶんぶんと首を振って正気を取り戻す。
『その今言った事が関係してるモノを探せば良いのね。だけどどうやって探したら良いんだろう・・・』
手がかりの様な手がかりにならない様な情報からどうやって探せばいいのか途方に暮れていると獏が一言。

『ググれ』

莉杞はポカンとするしか無かった。

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