『だけど、さっきも言ったがこれらの世界が交わる事は無い、近づくだけだ。そんな近づくだけの別の世界を今いる自分の世界に呼込む事ができる。これはとても難しい事ではあるが、できない事じゃない』
チラッと男の子は莉杞を見る、莉杞に思い当たる節が無いかと問いかけてる様に。
『パラレルワールドって事?』
莉杞は昔読んだ本にそんな事を題材にした本があった事を思い出した、夢物語としては面白いと当時は思っていた。
そんな世界が現実にあるのか?と聞かれると莉杞はあり得ないと考えていた。
だけどこの男の子の言ってる事はそのパラレルワールドについて言ってるようだった。
『だってあれって小説の中のお話でしょ』
莉杞が男の子に言うと。
『そう言いきれるか?』
そう言われると言い切る事ができない、幾人もの研究者達が研究しても結局そう言ったジャンルは諸説あっても実際にこれが正しいという説は無いのだから。
あくまでも仮説での話でしかない、だから一番これが万人受けする説だろうとしたモノが学校などで習う事になる。
例えば地球の内部についても学校で習うが、これを実際に確認した人など一人もいない。
あるはずが無いのだ、所詮人間は一番深い海の底にも到達していないのだから確認する事ができるはずが無い。
だけどさもこれが正しいとして授業で習う、そしてそれが正しい事なんだと自分の中で処理されてそれ以外の事はバカな空想として一般的には処理されてしまう。
莉杞が黙って考えていると。
『人間、お前達の言うパラレルワールドは実際に存在しているんだ。ただ交わる事が無いから気づいていないだけなんだ』
男の子が莉杞を諭す様に語りかける。
『お前達人間が選ばなかった世界は同時に進行している、たまに先に進む事があったり、遅く進む事もあるが、だいたい一緒の時間軸にある。その世界はそれぞれが選ばなかった世界とは別にまだあるんだがどんな世界か分かるか?』
莉杞は男の子から質問されても、どう答えていいのか分からない。
それ以前に自分の中で処理しきれていないから答え様が無い。
『頭が固いなぁ人間と言う生き物は』
自分は違うのか?と莉杞は思った。
『お前達の言うパラレルワールドはその時選ばなかった別の世界が同時に存在している事なんだろうが、実際はそれだけじゃない。じゃ、どんな世界が他にあるのかというとそれは・・・』
男の子は勿体ぶる様に莉杞をチラッと見てから。
『それは、真逆の世界だ』
いい加減莉杞は処理しきれていない頭にまた処理し難いモノを放り込まれてしまい、何が何だか分からなくなってきてしまった。
『そうだな・・・』
男の子は少し考えいる、分かりやすい答えを出そうとしている様に。
『例えば、今お前の性格が物凄く腹黒く、人の事を見下し、友達をモノとしてしか考えず、自分に従わない物は力で押さえつける嫌な奴だとする』
それを聞いてさすがの莉杞も。
『え!誰が嫌な奴ですって?』
怒り気味に、というよりもムカついていたのは確かだった。
自分の事を何も知らないのに、何故そんな事を言われないといけないのか。
この男の子はいったい何様のつもりなんだろうと。
だけど男の子は涼しげな顔で。
『例えばだ、先にも言っただろう』
と、一言いうと気にもせずに話を続けた。
『真逆の世界だと、物凄く清い心で、人の事を見下す事は無く、友達を大切にして、自分に従わなかったとしてもそれは一つの考えとして受け止め、お互いの考え方の中から答えを導きだす様な人物になる。そう言った別の世界もまたパラレルワールドとして存在すると言う事だ』
莉杞の頭がますます処理できなくなってくる。
男の子が何を言いたいのか分からず尋ねてみる事にした。
『結局その事と、私がここに来た理由と何が関係あるの?』
そう、莉杞にとっては処理できなくなった頭をスッキリさせるにはそれが一番だった。
『お前がこうして俺様の所に来た理由は他でもなく今言った事が関係している。交わる事が無いお互いの世界が交わってしまったという事』
莉杞の頭のモヤモヤがス〜と晴れていき始めた。
『そうか!沙織が変わったのは別の世界と交わったって事なんだ』
さっきまでそんな世界があるなんてあり得ないと思っていたはずなのに、不思議と今はそう思わなくなっていた。
自分が今居るこの場所が既に頭の中で処理できない事である様に、処理できないからと言ってそれが否定する理由にならない事だと今なら思えてしまうからだ。
『まぁそう言う事だな』
男の子がやっと本題に入れると言わんばかりに頷いていた。
『まず、それぞれの世界はある一定の周期で近づいたり、離れたりを繰り返している。一つの世界が今いる世界に近づいている時は別の世界は離れ、近づいていた世界が離れると別の世界が今居る世界に近づく、そんな感じで繰り返されている。』
男の子は指で近づいたり離れたりを表現して見せた。
『だが、今回のお前の友達の様に交わるはずが無い世界と交わってしまう事がある。それは意図して自分でやらないと絶対に交わる事は無いんだ』
交わる事が無いはずの世界が交わる理由を莉杞は考えてみる。
その時浮かんだ答えは。
『合せ鏡!』
そう、沙織が変わったのは合せ鏡をした次の日からだった。
『だけど合せ鏡って、あれは都市伝説でしょ?』
莉杞は合せ鏡の話を聞いた事はあっても単なる怪談話としてのストーリーと考えていたのである。