上に行く

上下に続く階段を見つめ悩んでいると。

ガタン!

嫌な汗が噴き出す。
悩んでる時間はない。
僕は一気に屋上に続く階段を駆け上がる。
同時に後ろの方から。

タタタタタ

僕を見つけたらしく、背後から追いかけてくる足音が聞こえてくる。
最後の力を振り絞るかの様に階段を駆け上がり、屋上へ続く扉を勢いよく開く。
滑り込む様に屋上に飛び出す。
屋上に隠れる場所など無い、武器になりそうなものを探すがそれも無さそうだ。

屋上の中心辺りまで進んだその時

グルルルル

後ろから唸り声が・・・
(ついに追いつかれたか)
僕は意を決して振り返る。
『え?』
いざとなれば徹底的に抵抗してやろうかと思ってた僕は少し自分の目を疑った。
屋上の出入り口から姿を現したのは、でっかいドーベルマン。

グルルルル

だけど、かなりのお怒りモードで殺気立って様子・・・
『追いかけてきてたのってドベ?』
必死で頭を整理する。
きっと後から飼主が出てきて・・・
・・・
・・・・
・・・・・
誰も出てこない・・・

お怒りモードのドーベルマンはゆっくりと僕に近づいてくる。
一歩一歩追いつめた獲物を狩り捕る為に。
『あのぉ・・・
何かしましたっけ??』
僕は問いかけてみるが、当然返事はない。
返事がない代わりに牙をむき出して唸る。

グルルルル

(本気だ)
僕はゆっくりと後退する。
今まで走り続けてきた事と、追っ手がドーベルマンだった事で気が抜けた事で体にどっと疲れが出てしまい、思う様にさがれない。
ガクンと膝が限界に達し、その場に尻餅をつく格好に倒れてしまったその時。

カラン

という少し乾いた音が同時に聞こえてくる。
『ん?』
カメラバッグから見慣れないものが頭を出していた。
僕はドーベルマンを視界の隅に確認しながら取り出してみると・・・

『骨?』
それは白い骨の形をした咬むおもちゃ。
一瞬何でこんなものがバッグに入っているのか理解に苦しんでしまった。
ハッと我に返ってみると、目の前のドーベルマンは完全にお怒りモードから激怒モードへと変わり、今にも飛びかかりそうな勢いでこちらを唸りながら様子を伺っている。
『これが追ってきてた原因?
・・・
だよね、その様子だと』
僕は骨のおもちゃをドーベルマンの足下に転がした。

ドーベルマンは前足の片方でそれを受け止めると、一声威嚇し僕を睨みつけた後大事そうにくわえて出入り口へ向かう。
まるで『次やったらぶちのめすぞ!』と言わんばかりの吠え方。
『ごめんよ』
何でこうなったのか理解できないまま僕は去りゆくドーベルマンの背中に謝ると、ドーベルマンは一度こちらを振り返り出入り口から出て行った。

僕はその場に寝転がり空を見つめる、丁度空は夕暮れ時できれいな茜色をしていた。
走り疲れて限界に達した体に心地のいい風が吹き抜けて行く。
カメラバッグに手を伸ばし、カメラを取り出す。
『きれいな空だなぁ』
呟きながらシャッターを切る。
『最悪な日だったけど、この空でチャラだな』
少しこの空を楽しんで帰る事にしよう。

▶終わり    ▶おまけ