(2)2013年11月24日
『お嬢様届きましたよ』
『本当?!早くこっちへ持ってきて』
私はベッドからばあやを呼んだ。
幼い頃から心臓が弱く、ほとんど家で過ごしている。
学校へも年に数回しか行く事ができない、以前学校で発作が起きた事があり父が心配し過ぎで家庭教師を雇っていた、学業に関しては困る事はないのだけれど・・・。
学校へ行っても友達はいない、クラスメイトからは珍しがられる事はあっても話をする事もない。
そんな毎日の中で唯一興味を持ったもの、それは写真を撮る事。
家でネットをしていて、私も撮ってみたいそう思った。
私の小さい世界、だけど四季がちゃんとある。
そういった変化を写真に撮ってみたいと思ったから、オークションに出されていた昔のカメラを手に入れた。
『そんな中古で買わなくても欲しいカメラを買ってあげたのに』
父はそう言っていたけれど、私はこの昔のカメラでミラーレスと呼ばれるカメラの形が気に入っていた。
『このカメラで良いの、デザインが凄く気に入ったんだから』
『そうか?新しいカメラの方が性能も良いのに』
そんな父の声を背中に受けながら、私は庭を初めて撮った。
私の最初の一枚。
写真としてはお粗末なのかもしれないけれど、カメラを通して見る世界はとても新鮮に思えた。
いつも見ている景色のはずなのにカメラを通すと別の景色に見える、またカメラの角度を変えると同じものでも全然違って見える。
私は夢中で庭のいろいろな物を撮った、まったくカメラなどつついた事もなかったけれど一瞬にしてその世界の虜になってしまっていた。
私の知っている世界、だけど私の知らない世界がそこにある、そんな不思議な感覚が嬉しくてたまらなかった、いつもベッドから外を眺めたり、たまに庭を散歩したりするぐらいだったから楽しくてたまらなかった。
『おいおい、程々にしておかないと体に無理がいくぞ』
父の声が聞こえるけれど、私はやめる気は無かった。
あっちを撮り、こっちを撮り、そうしていると画面にメモリー不足の通知が出てきた。
『あぁ、もう撮れないのね』
仕方なく家に戻る。
『余程気に入ったようだな』
『うん、カメラってすてきね。今まで見ていたものが全然違って見えるの、だから夢中になっちゃった』
『気に入ったのは良いが、無理だけはするなよ』
『は〜い。では、私はこれからパソコンに取り込んでさっきの写真を確認してくるね』
自室にもどり、説明書片手にベッドの上でパソコンとカメラを接続する。
『これでよし』
パソコンに先ほどの写真が保存されていく。
暫くすると取り込みの終了を知らせる電子音が鳴った。
私は取り込まれた写真を付属していた管理ソフトで開いていく。
『このRAWってなんだろう?』
説明書片手に調べていく・・・
『なるほど、そう言う事か』
出品者の方はこのRAWで撮影していたようで、設定など変更していなかったので前持ち主の出品者の方の設定のままになっていた。
管理ソフトでRAW現像と言うものを試しながら撮った写真を確認していくと。
『あれ?こんな写真知らないんだけど。どこだろう?』
Exifというのを確認すると。
2010年11月24日
と日付が表示されていた。
『今から3年前の写真なんだ』
出品者の方が消し忘れていたのかな?その時の私は深く考えていなかった。