1階に下りると莉杞は沙織の両親に相談してみようと台所に向かう。
『もう、帰ってるかな?』
来た時は誰も居ない様な雰囲気だった為、時間も時間だし沙織の事もあるから帰ってきてると思い、声をかける事に。
『おばちゃん、ちょっと話があるんだけど』
莉杞が声をかけながら台所を覗き込むと、そこにはまるで血の池に浮いているかの様に人が倒れていた。
人間本当に恐怖したときは声など出ないものである、それ以前に何が起きているのか理解ができないのだ。
莉杞は目に映し出されたものを必死で整理していく、いや、整理しようとする。
倒れてる人物が沙織の母親なのか?
それとも別人なのか?
何故そこに倒れているのか?
生きているのか?
死んでいるのか?
頭を整理したくても、何も整理できない、パニック状態になってしまっていた。
無理矢理落ち着かせる様にゆっくりと近づき確認をする。
倒れている人物の顔を見たとき、そこに倒れているのは紛れも無く沙織の母親である、整理しきれない頭でもそれは理解できた。
『な、何で?・・・』
確認するまでもなく、沙織の母親は死んでいる。
余計に頭の中が混乱してくる。
落ち着け、落ち着け、莉杞は呪文の様に繰り返し呟く。
何度も深呼吸を繰り返しながらやっと落ち着きを取り戻し始めた莉杞はまず警察に連絡する事にした。
携帯を鞄から取り出し通報しようとした時。
『死んでるでしょう』
背筋が凍り付く、何とも言えない単調なリズムでいてどことなく冷たく引き離した感じの声が背後から聞こえた。
莉杞はゆっくりと振り返ると、そこには寝ているはずの沙織が立っていた。
まるで人形の様に表情と言うものが無い。
『沙織、知ってたの?』
やっとの思いで声を出す。
少し間時間が止まったかの様に静寂が辺りを包む、沙織の返事次第で自分はどうすれば良いのか考えるが思いつかない、思いつくはずが無い、こんな状況普通に生活していれば合う確率はほとんどないだろう。
ごくり
莉杞の背中に嫌な汗が流れる、どれだけ時間が経ったのか分からない、数秒なのか、数分なのか、もしかすると数時間なのかもしれない。
何処を見ているのか、変わらず虚ろな視線の沙織の目が莉杞に突き刺さる。
『ふふ・・・』
沙織の口元が少し緩む。
『
あははははは!!』
沙織の笑い声が静寂を打ち消した、目の前に居る沙織は自分の知っている沙織と明らかに別人に思える、冷酷で残忍などこか狂人に近い雰囲気。
『そう、それは私が殺ったの』
今までに見た事も無い沙織の表情、直感的に莉杞の体を危険信号が走る。
逃げないと!そう思ったとき。
『逃げられないよ!』
こちらの動きを察知したのか先手を打たれた。
莉杞はチラッと沙織を見ると、そこには莉杞の知る沙織はいなかった。
そこにいる沙織はまるで別の人格でも入り込んでる様で、虚ろだった目線も今は無く鋭い目つきで莉杞を見ていた。
『ふふ、私が誰かって思ってるでしょう?』
まるで莉杞の心の声に応えるように。
『残念だけど、私は正真正銘の沙織なんだよ。だけど莉杞が知ってる沙織かと聞かれると・・・う〜ん、ちょっと答えが難しくなるかもね』
どういう意味なんだろう?莉杞が不思議な答えを考えていると。
『莉杞には2つの選択肢が今用意されてます』
沙織は不気味な笑顔を浮かべながら続ける。
『1つは逃げようとしてそこに転がってる人の様になるか?もう一つは何もなかったかの様にこれからも過ごすか?そう、今まで通り友達としてって事』
友達として?こんな状況で?黙ってろって事?
頭の中がぐちゃぐちゃになってくる、自分が正常な判断ができるのかすら危うい。
『今まで通りって?』
やっと絞り出した声は喉がカラカラでかすれた声になっていた。
『ん?その言葉のまんまだけど?学校やそれ以外でも楽しくお話をしたり、一緒に遊んだり、今までと変わらず一緒の関係』
無邪気な沙織が今目の前にいる、さきほどの不気味な笑顔などない、いつもの変わらぬ沙織が今目の前にいる。
『ただ・・・』
一瞬にして沙織の鋭い目が莉杞に向けられた。
『莉杞がどこまで私の要望を満たしてくれるか監視も兼ねてるけどね、莉杞がいつも通りいてくれる間は私は何もあなたに危害を加えない、それは約束するよ』
言い終わると沙織はいつもの沙織の様に無邪気な笑顔になった。
混乱する頭をどうする事もできず莉杞は。
『分かった、普段通りに接したら良いんだよね』