第三章 必要なあるモノ

次の日の朝莉杞は手に握られていた一つの物体を見つめていた。
その物体は獏から渡されたモノだった。
形は勾玉になっているが堅さは無い、どちらかというとグミに近い感触でぷにぷにとしていた。
『不思議だなぁ』
莉杞は何度もぷにぷにとつついてみる。
勾玉はつつくと中で波紋が起きていた、中に液体でも入っているのか?それともこれ自体が液体なのか?莉杞には想像もつかなかった。

『お前にこれを渡しておこう』

そう言って莉杞に渡された勾玉、だけどそれをどうするのか莉杞には皆目見当がつかない。
使い方などは一切教えられていないからだ。
『これどうしたらいいんだろう?』
見れば見るほど不思議な勾玉だ、七色になったかと思えば単色になったりもする。
1日ずっと見ていても飽きない、そんな気にさせてしまう。
いつまでも見つめている訳にもいかず莉杞は制服に着替え1階に降りて行く。
『莉杞おはよう』
母の元気な声が聞こえてきた。
『あっ、おはよう』
すでにテーブルの上には朝食が並べられている、ごはん、みそ汁、サラダ、果物。
決して多くもなく少なくもない、丁度の量が並べられている。
『早く食べて学校に行かないと遅刻するわよ』
母に急かされながら朝食をすませ、食後のコーヒーを片手に考えていた。
これといって獏からは何も言われていない、追って何をするか教えるからとそのまま帰されたのだ。
今は獏を信じるしか無い、例えこの先自分の身に何が起ころうと信じて進むしか方法が無いのだから。
その時玄関の方から声が聞こえてきた。
『莉杞、迎えにきたよ』
その声が誰かすぐに分かった、同時に莉杞は心臓を鷲掴みにされた思いだった。
台所から顔を覗かせながら母が声の主と楽しそうに話している。
しばらくして。
『沙織ちゃんが迎えにきたよ、早く用意しなさい』
どうやら異変には気づいていないようだ、今家に来た沙織がどっちの沙織なのか莉杞にはまだ分からない。
もしもう1人の沙織だったら・・・
荷物を持って玄関へと向かう、だけど莉杞は足枷を付けられているかの様に足が重かった。
『体調悪いの?』
そんな莉杞の様子から沙織が問いかけてきた。
『えっ、そんな事無いよ。ほらいつも通り元気だって』
いつも通りに振る舞ってみる、同時に莉杞は沙織を注意深く見る。
パッと見はどう見てもいつもの沙織に見える、だけど本当に自分の知る沙織なのか自信が持てなかった。
『沙織はもう大丈夫なの?この所体調悪かったでしょ』
『全然平気!至って健康体なのさ〜。確かにこの所何かおかしかったはずだけど普通に元気だよ』
どっちの沙織なのか見抜く方法を見つける必要があった、だが今はその違いが分からず何とか会話からその糸口を探せないものかと思っていると。
『ねぇ莉杞聞いてよ』
沙織の方から話してきた。
『今日ね、起きると誰も居ないの。置き手紙も無いしどっかへ出かけるならちゃんと言って欲しいよね』
そう言うと沙織は怒っている様に見せた。
『あっ、そうよね・・・。出かけるなら一言欲しいよね』
知らない振りをしているんだろうか?それとも・・・