気がつくと莉杞は見覚えのある場所に立っていた、あの大きな扉と2体のガーゴイルに似た石像のある場所に。
莉杞が来た事を分かったのか扉の片方がギィィィと音をたてながら開き始めた。
そして扉が開ききった先には執事の格好をした例の男性が立っていた。
『お待ちしておりました莉子様、旦那様がお待ちしております』
中へどうぞと手で合図をする、莉杞は男性の後を前回と同じ様に付いて行く、屋敷の中は相変わらず奇怪なインテリアに囲まれている、莉杞からすると悪趣味としかいい様が無い。
そうこうしていると目的の部屋に辿り着いた、男性はドアをノックして。
『旦那様、莉子様をお連れ致しました』
すると中から。
『入れ』
と返事がきた、莉杞は男性にまたもや入る様に合図される。
前回来たときと何ら変わらない、山積みになった本などの間から男の子がこちらを見ていた。
『やっぱり来たか』
莉杞が来る事は予想していたようで待ちくたびれたと言いたげな様子だった。
男の子が喋りだす前に莉杞は疑問に思っていた事を問う。
『沙織は変わったままだったけど、どうして?言ってたよね今はまだ本来の人格の方が強いって』
男の子はやれやれという態度で莉杞の疑問に答えた。
『言ってたはずだが。眠っている時に今はまだ人格が変わると』
『だけど、朝なのに。沙織はいつも早起きだし1日ずっと眠ってるなんて・・・』
莉杞が知りたかった事を男の子は答える。
『朝確かにお前の友達は目覚めてた、だけど見てしまったんだ』
『何を見たの?』
『人間、お前があの日見たモノをだ』
莉杞はあの日の事を振り返り、あの時見たモノがなんだったのか思い出した。
わざと放置したのか、それとも何も考えずに放置されていたのかは分からない、だけど沙織がそれを見たら・・・
『その時気を失ったんだろう、また入れ替わってしまったんだ。その後は現実を受け止められずに半分自分の殻に閉じこもり気味になっている。だから1日ずっと入れ替わったままになったんだ』
『そんな・・・』
莉杞はその場に力無く崩れ落ちた、沙織は見てしまったのだ。
あの変わり果てた自分の母を・・・
『さて、どうするんだ人間』
莉杞は何が?という風に男の子を見る。
『何がって分かってるだろ?ここに来たって事は夢を犠牲にして助けるつもりだったんじゃないのか?』
『それはそうだけど・・・その前に聞きたい事があるの』
莉杞は男の子をまっすぐ見据える。
『俺様に聞きたい事?何だ言ってみろ』
莉杞は朝の沙織の言葉がずっと引っかかっていた、聞くなら今だとばかりに男の子に聞いてみたのである。
『ここは獏の森なの?あなたは獏なの?』
男の子は莉杞からの思いもしない質問を受けた様で、少し『はぁ?』と言う感じに見えた。
『
あははははは』
突然男の子は笑い出す、今度は莉杞が逆にキョトンとしていた。
『何だ、そんな事を知りたかったのか。人間は変な事を気にするんだな。俺様から言えばそんな事どうでもいい事なんだけどな』
『そんな事って・・・』
男の子はまだ笑い足りないのか、ケラケラと笑っていた。
『そうか、お前達人間はここの事を獏の森なんて呼んでるのか。なるほど・・・』
突然男の子は考えだす、暫く莉杞の事など忘れて何やらぶつぶつと呟いていた。
『あのう・・・』
ぶつぶつ呟き続けている男の子に恐る恐る莉杞が声をかけると同時ぐらいに。
『よっし!決めた!!』
『えっ!?』
『今日からこの場所は獏の森に決定だ!』
『えぇぇ!!』
どうやらさっきからぶつぶつ言っていたのはこの場所を何にするかを考えてたようだ。
そしてぶつぶつ呟いた結果”獏の森”が気に入ったようで男の子は満面の笑みを莉杞に向けていた。
『人間、今日から俺様も獏で良いや』
『ば、獏で良いやって・・・』
突然の男の子の提案でまたしても莉杞はキョトンとしてしまう。
『人間、今日から俺様の事を獏と呼んでいいぞ』
余程気に入ったらしく男の子、いや獏は上機嫌だった。
『こんな場所だから俺様の事を名前で呼ぶ奴なんていなかったし、気にする奴もいなかったからな、人間お前って本当変な奴だよな』
そう言うとまた獏はケラケラと笑い出した。
満足したのか獏は一息つくと、莉杞に向きなおし。
『人間、お前達の世界でいう特典を付けてやる。お前の友達は俺様が責任もって助けてやる』
『特典?』
『まぁ、それは全て片付けてからのお楽しみだ。だけど条件は変わらん!そこは譲らん』
獏は楽しみにしていろという風に莉杞に合図する、莉杞は訳も話からずに居たが改めて獏に問いかける。
『本当に、助けられる?』
莉杞にとっては一番大事な事だった、友達を助けたい、だけど夢を諦めて友達も助ける事ができなければ何の意味も無い。
『俺様を誰だと思ってるんだ、約束は絶対に守ってやる』
獏は自信満々に莉杞に答える、それを聞いて莉杞は全て任せる事にした。
『分かったわ、私も約束は守るから沙織を助けて』
獏はニヤッとすると。
『これで契約は成立した、人間お前の夢は全て終わった後に遠慮なく俺様がいただく事にする、それまでその夢を大事にするんだな』
上機嫌の獏とは対照的に、本当に良かったのだろうかと莉杞はまだ不安でいっぱいになっていた。
もしかすると自分はとんでもない契約を結んでしまったのかもしれない、目の前にいるのは人の姿をしていても自分とは違う。
人にあらざるモノ
そう、妖怪、化物、怪物などと言われる類いのモノ。
莉杞はそういったモノと契約を結んでしまったのだ、これから先自分がどうなってしまうかも分からず、夢も無くなってしまう、一人喜んでいる獏をただ見ているだけしか莉杞にはできなかった。