学校に着くと二人はまず図書室へと向かう、沙織の日課に莉杞も付き合う事にしたのだ、そうする事で今までと何も変わらない事を実感したかったのかもしれない。
朝の図書室はほとんど貸し切り状態に近い、図書委員と莉杞達しかおらず読書をするにはちょうどと言っても良かった。
それぞれ本を持ち寄り図書室の一番奥に座る、沙織はいつもこの一番奥の窓の近くへ座るのが好きなのだ、読書をしながら時折窓から移り行く景色を楽しむのが日課になっていたのである。
いつもはだいたい一人で座るのだけれど、今日は隣に莉杞が座っている。
たまにお互いチラッと顔を見る、目が合えばクスッと小さく微笑みながら時間が過ぎて行く。
そんな時間の中で莉杞は沙織に話しかけた。
『ねぇ沙織、昨日ね変な夢見たんだ』
『変な夢?』
沙織は不思議そうに莉杞の顔を見る。
『うん、変な夢。沙織が突然別人みたいに怖くなった夢。バカだよねそんな事ある分けないのに、昨日沙織が休んだから心配で変な夢を見ちゃったんだろうね』
莉杞が話している最中に沙織は鞄の中をゴソゴソとしていた、目的のモノを見つけるとうす笑みを浮かべる。
『本当心配したんだからね、それにね夜さらに変な夢を・・・』
そう言って莉杞は沙織に向き合うと沙織もこちらを向きニコッと微笑む、いつもの沙織の笑顔だがその手には鈍く光るナイフが握られていた。
『良かったね今私と二人で、もしそんな事を他の誰かに話してたら・・・ねぇ』
蛇に睨まれた蛙の様に莉杞は動けなかった、目の前の沙織は今にも本当に莉杞を刺すんじゃないかと思える程に殺意が見て取れた。
いつでもあなたを殺せるのよと言わんばかりに。
『昨日言ったじゃない、今まで通りてにって』
莉杞は夢であって欲しいと思っていた事がやっぱり夢でなかった事を思い知る。
『ねぇ莉杞。さらに変な夢ってどんな夢だったのかな?』
沙織はいつもの笑顔で問いかけてくる、他の人がもし今の莉子達を見ても沙織の変化に気づく事は無いだろう、それぐらい目の前の沙織は普段通りの笑顔だった。
『た、大した事じゃないの。見た事も無いホラー映画に出てきそうな変な木が沢山ある森を彷徨ってた夢だったの。本当それだけ・・・沙織って夢占いとかも好きだから・・・』
ふ〜ん、という素振りで沙織はナイフをポケットに入れた。
少し考える様に腕を組みながら、先ほど莉杞が話た夢の事を整理しているみたいだった。
一つ深呼吸をして窓の外を見ながら呟いた。
『それは獏の森かもね』
『獏の森?』
沙織が言った獏の森に思い当たる節は無い、何の事か分からずいると。
『何度か話は聞いた事がある、夢を喰らう獏って架空の生き物があるでしょ。その獏の森が何処かにあるって言う都市伝説があるの。その森を彷徨い続けると生気をを奪われるっていう。いろんな言い伝えもあるけどね獏の森とは夢魔の森とも言われてて淫夢を見る事で精気を奪われるとも。サキュバスやインキュバスもその類いね』
莉杞は沙織から殺意が消えた事と今の話からきょとんとしている。
『まぁさっきの言った事は夢占いじゃなくちょっとした都市伝説の一つなんだけどね』
いつもの様に戯けてみせる。
『一般的に夢占いなら暗い印象みたいだし運気が下がってきてるのかもね、もしくは疎外感や孤独感など感じているのかも。逆の意味ならもう少し良かったんだけどね。仕方ないわよね・・・』
沙織は莉杞を獲物の様にチラッと見ると。

『だって、私が監視しているものね』

と冷たく呟く、莉杞に不要な事は喋るなと釘を刺す様に。