休み時間は沙織と一緒に行動していた、仲の良い友達がという風に周りには見えたかもしれない、だけど実際は”監視”まさにそれだったのだ。
学校が終わり家に帰り着く頃には精神的な疲労でクタクタになっていた。
実際家に帰り着くまで沙織が一緒にいたから、本当に心の休まる時が無かった。
『ただいま』
莉杞は玄関に腰を下ろし、はぁ〜と安堵のため息をついた。
今までで一番長い一日が終わった、そんな事を考えながら。
『おかえり、今日はえらく疲れてるわね』
台所から顔をのぞかせた母に振り返りながら。
『うん、ちょっとね』
そう答えるのがやっとだった。
『あ、お母さん。今日ご飯軽めでいいから』
疲れた体を引きずる様にして自分の部屋へと向かった。
部屋に入るとそのまま鞄を放り投げベッドに倒れ込む、枕に顔を埋めながら今日一日を振り返る。
『沙織はおかしくなったままだった、何でだろう?』
夢で見た男の子が言ってた事を思い出す。

”例え違う世界の自分だったとしても同じ世界に同時に自分は2人存在できない。これはこの世界のルールだ。その為存在するには一つの身体を二人が使う事になる。お前達の世界で言う多重人格の一つだと思えば分かりやすいだろう。今ならまだ本来の世界の人格が強い、だから別の世界の人格は本来の世界の人格が眠っている時にしか今は出て来れない。その場合本来の人格は夢として別の世界の自分の行動を見る場合がある”

だけど今日の沙織は既に入れ替わっていた事になる。
もう乗っ取られたって事なのだろうか?
だとしたら自分の知る沙織には二度と会えないのだろうか?
『どうしたらいいんだろう』
莉杞にはどうする事もできなかった、友達一人救えない自分に苛立を覚えても何もできない。
『あの男の子なら助けられるかも、だけど・・・』

夢の無い人間

そう、自分の夢そのもの全てを差し出す事が条件だと言っていた。
夢の無い人間とはいったいどんな状態なんだろう、生きる屍そんな言葉がぴったりの人間になってしまうのだろうか?
莉杞は自問自答を繰り返す、自分を犠牲にしてまで助けるべきなのか、たとえ友達だとしても助けた後自分がどうなるのかすら見当がつかない、夢の無くなってしまった自分と沙織は友達でいてくれるのだろうか、そんな事をずっと一人考えていた。
だけど一つだけ分かる事がある、それは今のままじゃ駄目だということ。
『もう一度あの男の子に会ってみよう!』
先の事なんて誰も分かる訳が無い、今自分が沙織にできる事をやる、ただそれだけを信じて莉杞はもう一度あの男の子に会う事を決めた。
莉杞は軽く食事を済ませるともう一度あの少年に会う為に眠りについた、もしかすると自分が作り出した夢の世界なのかもしれない、だけどそれでもまた会えるのであれば、そう考えていたのだ。